←「コンデジで変光星観測 3」 「コンデジで変光星観測 5」→
(2)測光する (a)一次処理
撮影した画像をPCに取り込んで測光用のソフトウェアで星の明るさを測ります。星の明るさを測る前に撮影した画像を測光ができるように処理しておかないといけません。この処理のことを一次処理といいます。ここではRAWデータ形式で保存された画像を用いることにします。
星の明るさを測るといってもいったい何を測るのでしょう。そう、画像に写っている星が何等星であるかを測りたいのです。では何等星というのはどういう意味なのでしょうか。例えばAさんがある星を見てX星よりY星の方が明るく見えたとします。でもBさんはX星の方がY星より明るく見えると主張しました。AさんとBさんのうちどちらかが嘘をついているのでしょうか?もちろんどちらかが嘘をついている可能性は排除できませんが、どちらも正しいという場合もあります。例えば、AさんとBさんの色の感受性(感度)が異なっていたとしましょう。Aさんは赤の方が青より明るく見える眼を持っていて、Bさんは逆に青の方が赤よりも感度が高い眼を持っているとしましょう。X星は青い星でY星が赤い星だったとしたらAさんもBさんも素直にそう見えたといっているだけで二人とも嘘はついていないということもあるのです。AさんとBさんをカメラに置き換えて考えてみてください。2台のカメラでそれぞれ写した画像を使って測光したら全然違う値が測れてしまったら困りますよね。それを調整するための前処理も一次処理の中に入っています。
星の等級を決めるために1950年代にジョンソンさんという天文学者が波長帯(色)別に星の明るさを決めました。そのときにU(紫外線域)、B(青色域)、V(実視域 Visual)のフィルターを用いて測光標準星を決めました。その時に使ったフィルターと同じ特性をもったフィルターをジョンソンフィルターといいます。その後カズンズさんがRc(赤色域)、Ic(近赤外域)のフィルターを用いて波長の長い光の等級を決めました。これらのフィルターを用いて測光するシステムをジョンソン・カズンズシステムといいます。ただしジョンソン・カズンズのフィルターは測光用以外に使い道が無くて数が出ないためでしょうがとても高価です。フィルターだけで1セット10万円から数十万円もします。これではお手軽観測とはいえません。
ジョンソン・カズンズシステムのフィルターはその特性をきっちりあわせて作る必要がありますが、世界の天文台ではその目的に応じてジョンソン・カズンズとは特性が違うフィルターを使用していることが多々あります。それでも最終的にはジョンソン・カズンズシステムで測光した値に換算できるように換算式をもっています。このあたりの詳細は東北大学にいらっしゃった市川さんのこの記事を参考に勉強してみるのがよいでしょう。
話が少しそれましたが、変光星を測光して明るさを決めるときにはジョンソン・カズンズのVフィルターで測光した等級(V等級)やBフィルターで測光したB等級などとジョンソン・カズンズシステムで測光したとしたらこの等級になるよという値を求めなければなりません。そこでどうするかというとコンデジの撮像素子(CMOSなどと呼ばれます)は光の3原色に相当する画素が規則正しく配置されていることを使います。撮像素子は緑と赤と青に感じる素子がベイヤー配列と呼ばれる配置で並んでいます。ですから撮影した画像の中から各色に相当するデータごとに分けてあげ、その内緑の素子が写したデータだけを使うことにします(このデータをGプレーンのデータといいます)。そうすればVフィルターをつけて撮影した画像に近いデータが得られることが分かっています。すなわちGプレーンのデータを使って測光すればV等級が測れると思ってください。(もう少し詳しく言うとGプレーンのデータはV等級ではなくVt等級と相性が良いようです。Vt等級とはヒッパルコスという測光衛星が使っていたフィルター特性から決められた等級です。)
では最初に撮影した画像のRAWデータからGプレーンを取り出してみましょう。取り出すには星空公団さんが作成・配布してくれているraw2fits.exeというソフトを使用します。このページにあるraw2fits.exeをダウンロードしてどこかに保管して置いてください。使い方は簡単でWindowsのエクスプローラーから変換したい画像ファイルをドラッグしてraw2fits.exeにドロップするだけです。そうすると画像ファイルがあった場所に各プレーンに分けられたデータがファイルとして生成されます。CANONのカメラのRAWデータはCR2(最近のものはCR3だったりします)という拡張子が付けられています。例えばxxx.cr2というファイルをraw2fits.exeにドロップするとxxx.cr2.b.fits とかxxx.cr2.g1.fitsとかいうファイルができます。この内、xxx.cr2.g.fitsというデータファイルを使って測光します。実はベイヤー配列の撮像素子には緑を感じる画素が赤や青に感じる画素数の2倍あります。それぞれを取り出したxxx.cr2.g1.fitsと xxx.cr2.g2.fitsというファイルも出来ますが、g1とg2を加算したファイル(xxx.cr2.g.fits)でいいでしょう。(g1,g2,gをそれぞれ測光してみましたが大きな違いはありませんでしたので)ただし、raw2fits.exeが全てのカメラのRAW画像を扱えるわけではないようですし、このソフトはWindowsでしか動きません。Linuxなどの非Windows PCを使っている場合やraw2fits.exeがサポートしていないカメラの場合は別の方法を考えなければなりません。
raw2fits.exeが生成したファイルの拡張子がfitsとなっていますが、これはfits形式のファイルであることを表しています。fits形式というのは天文関連の研究機関で共通に使われるデータ形式のことです。一般的にはあまり知名度の無い形式ですが、天文界隈では世界標準の形式です。
取り出したGプレーンの画像を使って測光をするのですが、その前にもう少し前処理をしなくてはいけません。それはダーク補正とフラット補正です。ダーク補正というのはカメラのレンズをふさいで撮影した真っ黒なデータです。デジタルカメラは数百万、数千万の画素がありますのでそのうちのいくつかはちゃんと機能していなかったり、温度が高いと暗電流ノイズというノイズ(雑音)が写ったりします。ですから星を撮影したのと同じ条件(感度、露出時間、温度の条件を揃える)でダーク画像を撮影しておきます。そして星の画像からダーク画像を引き算してあげることでノイズなどを消してあげる作業をします。
今回使用しているG5Xというカメラは長秒時ノイズ低減という機能があり、それはある程度長い露出を行なうと、撮影した直後に同じ露出時間だけダーク画像を撮影して自動的に引き算してくれる機能です。私はこの機能を使っているのでダーク演算はしていません。
フラット画像とは画像を平坦にするものです。どういうことかというとカメラを真っ白なものに向けて撮影すると下のような画像が得られます。本来真っ白な画像になるはずですが、周辺が暗くなっていますね。これを周辺減光と呼びます。カメラのレンズは有限の大きさを持っていますから周辺部に入ってくる光は中心部に入ってくる光より弱くなります。ですから周辺に写っている星は中心に写っている星より暗く写ってしまうことになります。これでは写る位置によって測光した値が変わってしまうのです。ですからフラット画像のデータで星の画像データを割ってあげて全面に均一に光が入ったように補正してあげるわけです。この処理をフラット補正といいます。

今回の場合は、Gプレーンの取り出し、ダーク補正、フラット補正をまとめて一次処理と呼んでいます。モノクロカメラにジョンソン・カズンズシステムのフィルターを使用して撮影された画像に対してはGプレーンの取り出しは不要ですので、その場合はダーク補正、フラット補正をすることを一次処理といいます。
一般にはダーク補正、フラット補正はソフトウェアを用いて行ないます。今回使用するステライメージというソフトは一次処理を行なうことができます。もちろん他にもいろいろなソフトで一次処理を行なうことができます。国立天文台で無償で配布しているマカリというソフトを用いてもダーク補正、フラット補正が出来ますのでこれもお勧めです。

